以前に私が仲村トオル出演というだけで、母がチャン・ドンゴン出演というだけで選んだ映画をふたたび見ることにしたので。
【ロスト・メモリーズ】
【イ・シミョン】
【2004年3月】
【歴史・ファンタジー・コメディ】

↑全体的にやっちゃった感が漂うDVDパッケージ。
韓日合作映画らしいんだが、舞台は時々ハルビンに飛ぶ以外ずっと朝鮮。
韓国と言わないのはストーリー的必然から。
Gyaoの宣伝で「荒唐無稽SF」と銘打たれた理由について、ここではあえて述べない。
ともあれ、ストーリーはこちら。
1909年、ハルビン駅。
ホームに降り立った伊藤博文を狙うひとつの銃口と、その持ち主である安重根を狙うもうひとつの銃口。
先に火を噴いたのは、後者だった。
伊藤博文。
彼が生き残ったことで、歴史の針は加速してゆく。
皮肉にも韓国併合に反対していた伊藤その人が初代朝鮮総督となり、経営にのりだす。
三・一事件はなんら英雄的なエピソードを残す間もなく鎮圧され、独立運動もことごとく失敗。
1936年日米は連合し、日本は連合国側として参戦。
戦時のどさくさにまぎれ、1943年に満州を併合し莫大な資源を得た。
ベルリンへの原爆投下で始まった戦後世界で、日本はアジアの盟主となる。
1960年には国連安保理の常任理事国に加えられ、1965年にはフランスと紙一重の差で人工衛星を打ち上げた。
さらに順調な経済成長を続けた日本は、1988年に二度目のオリンピックを名古屋で開催し、2002年にはサッカーワールドカップを開催するなど、世界の一角に常にそびえる大国として栄えていた。
そして、併合百周年をひかえた2009年、物語は始まる。
内地にくわえ、満州から東南アジアにいたる地域を事実上統治している大日本帝国は、凶悪犯罪や独立運動がたえない。
それらへ対応するため、帝国はアメリカにならって帝国全土を統括するJBI(日本捜査局)を立ち上げていた。
そのJBI京城支局に、名物コンビがいる。
坂本正行と西郷将二郎。
朝鮮系と大和系の二人組は、朝鮮にあって理想的な刑事の姿だといえる。
さて、伊藤会館(戦争記念館)で行われていた井上文化事業会のコレクション展示会に、朝鮮解放同盟と名乗るテロリスト集団が乱入、人質をとって立てこもる。
JBIは直ちに出動し、坂本と西郷の指揮でテロリストを潰滅させてその場は収まるが、捜査を進めるにつれ奇妙なことが分かってゆく。
十人の犠牲で一人を脱出させようとした意図は何か。
美術品を持ち逃げしようとした動機は何か。
事業会の創設者で、第二代朝鮮総督でもある井上とは何者か。
謎を追ってはるかハルビンまで飛ぶ坂本。
そこに待っていたのは、日本近現代史を揺るがすどころかひっくり返す、衝撃の真実だった──
面白く感じられなかったら、申し訳ない。
面白くないんだからしょうがない、ともいえる。
前に見たときは最初の一時間だけ楽しめたけど、今見るとまるで面白くない。
理由は簡単。
演出がねちっこいのが響いたに決まってる。
いや、冒頭の伊藤会館事件だけでそれが分かるってもんで。
事件が起きて京城府警察の文字も新しいパトカーと、JBIの武装トラックが車回しに進入するところでかぶさる、テレビ局のリポーターの声とか。
現在、人質をとって伊藤会館に立てこもっているテロリストたちは、みずからを「朝鮮解放同盟」と名乗る不令鮮人であることが明らかになりました。
「日本と朝鮮は決してひとつの国ではありえない、分離独立すべきだ」とする彼らの主張が、朝鮮系日本人たちの間ですら支持されないとなるや、不胆なテロ行為も辞さなかった彼らは、2007年日本文化研究所侵入事件で首脳部が全員逮捕され、すでに組織が瓦解したものと思われていましたが、今日このようなテロが再び起こったことで、彼らの組織が地下深くで秘密裏に拡大していたことが確認されました。
見ての通り、ちょいちょい日本語が変。
上のリポーターは朝鮮系なんだが、他にもいろいろとあからさますぎる朝鮮の日本化が。
朝鮮総督府建物が史実どおりの場所にCG再現とか、
日本統治時代の地名表示とか、
道路が左側通行とかビルの広告が日本語とか、
李東国選手の胸に日の丸とか日本人キャラの私服が着物とか。
まあ、その辺はまだいい。
しかし、警備員が相撲中継見てたり、光化門ロータリーの李舜臣像が馬上の太閤像に変わっているのは、さすがにどうだろう。
さらに坂本(チャン・ドンゴン)と西郷(仲村トオル)の扱いも、
ついでに言えばテロリストとJBI兵の扱いもおかしい。
たとえば、建物に突入して廊下両側の部屋を確認するとき。
坂本は兵士がドアを突破するとすぐに部屋へ拳銃を向けるが、
西郷は兵士に顎で指示して、自分は比較的余裕を持ちつつ部屋を検分。
JBI兵と同盟構成員の扱いの差は、それこそ圧倒的。
当たらないJBI兵の小銃弾、必中する同盟員の拳銃弾。
そして最後は数の暴力で同盟全滅。
明らかに死人はJBIの方が数倍してるね、ありゃ。
さらに、当然同盟員は勇敢だったり行動的だったり、ついでに顔もよかったりするわけだが、JBI兵は全員が防弾ジャケットにフルフェイスマスクで顔が分からず、まるでゲームのザコ敵そのまま。
さらに、JBIの朝鮮系刑事(=親日派)は同盟員がキャプチャ。
最後には同盟員が撃たれたとき頭抱えて丸まってるだけ。
まあ一番ひどいのはJBIの部長で、関係ないところで差別発言がぽろぽろ。
京城が名古屋を抜いて日本で三番目の年になってるご時勢にも、そういうのを警察官として登場させる、脚本家の意地悪さがまるだし。
西郷が広い敷地の日本家屋に住んでて着物を着てる、典型的保守派日本人だったのも、もはやオアシス。
ストーリーは、これに輪をかけてハチャメチャ。
ミステリーから古代文明に飛ぶとは思わなんだ……と書いた時点で、お察し下さい。
さらに、人間ドラマも説得力まるでなし。
顔も名前も知らないけど、役者さんたちで保ったとしか言いようがない。
正直、この映画で評価できるのはセリフひとつだけ。
坂本、俺はお前のこと朝鮮人だなんて思ったこと一度もないよ?
夕食に呼ばれた坂本に、西郷が言った言葉。
西郷本人は民族より国籍を重視しているようで、
「とっくの昔に朝鮮という国はなくなって、日本というひとつの国としてやってきた」
なんて平気で言う。
これは、
・この世界の日本でも八紘一宇思想が広まっている
・都合のいい歴史を捏造されている
という表現だろう。
しかし、陰に陽に朝鮮系は差別されているようで、西郷はそれを踏まえて「お前も俺も、れっきとした日本人だ」と言いたかったんだろう。
ところが、自分が朝鮮人だと自覚している坂本としては、そう言われても嬉しくもなんともないわけで。
西郷は坂本の親友で、妻子のために敵対するという、比較的いい扱い。
その親友の西郷でさえ、こうした先入観を持ってしまっていることがわかる。
ところで、西郷が同盟のテロについて「現実から目をそらせようとする、やつらの時代錯誤的な発想」を真の問題と指摘している。
これは韓国で右翼認定された日本人の方々にあてこすっているのか、それともこの世界の同盟とテロ活動を通して「誰にでもそういう傾向がある」と伝えているのか。
あまりに言い方が露骨すぎて、一瞬後者の可能性を考えたよ、HAHAHA。
追記。
音声解説を見ていると、製作陣はかなり世界観に気を使っていることがわかる。
まあ白黒塗装に京城府警察のパトカーをはじめとして、西郷の着物姿も大日本帝国の文化が続いていればおかしくない。
坂本も、韓国の儒教文化のもとでは父の友人の前でタバコを吸ったり(そういうシーンがある)しないのに、劇中ではやっていたり。
さらに坂本の好物が寿司で嫌いなのがキムチというのも、日本統治下ならではの好みといえばいえる。
韓国の文化をよく知らないと、この映画は評価できないのかも。
だが全体評価は譲れない。というわけで、
オススメ度:☆★★★★
ちなみに最低評価は白星ゼロ。まだ下があるからね。